消滅時効期間経過後の支払督促と時効の更新(時効の中断)・時効援用権喪失

 消費者金融などの債権者からの請求では、訴訟以外の方法として、支払督促を用いられることがよくあります。

 稀に、消滅時効期間経過後に支払督促が行われ、出廷も反論もせず、仮執行宣言付支払督促が確定した状態で、法律相談に来られる方がいらっしゃいます。

 この場合、以下のとおり、債務の支払いを免れる場合があります。

 支払督促は、支払督促の申立てにより、裁判所から支払督促が発付され、次に、仮執行の宣言の申立てになり、当該支払督促に仮執行の宣言がされるという2段階の手続になっています。そして、仮執行宣言付支払督促は、確定判決と同一の効力をもちます(民事訴訟法396条)。

 他方で、2020年(令和2年)4月1日施行の民法改正により、債権の消滅時効は、①債権者が権利行使可能なことを知った時から5年間、または、②客観的に権利行使可能な時から10年間のいずれか早い方が経過したときとされています(民法166条)。

 そのため、①債権者が権利行使可能なことを知った時から5年間、または、②客観的に権利行使可能な時から10年間のいずれか早い方が経過した後に、消滅時効の援用を行った場合、法律上、債務者は債権者に対して債務を支払う義務がなくなります。

 もっとも、支払督促が確定したとき、消滅時効は更新されることから(民法147条2項)、更新された後、再び上記時効期間が経過しなければ、消滅時効を援用することはできません。

 そのため、債務者の消滅時効の援用の主張に対しては、金融機関等は、支払督促が確定したことをもって、時効が更新したと主張することが想定されます。

 では、消滅時効期間が経過した後に、支払督促が確定した場合、時効は更新するのでしょうか。

この点、消滅時効期間経過後に仮執行宣言付支払督促が確定した債権に基づく強制執行に対し、請求異議の訴え(民事執行法351項)を提起した事案について、宮崎地方裁判所令和2年10月21日判決は、以下のとおり判示しました。

「本件貸金債権は、遅くとも最終弁済期から5年後の平成26年1月26日が経過した時点では、平成29年法律第45号による改正前の商法522条の消滅時効が完成していることは明らかであるところ、平成29年法律第44号による改正前の民法にいう時効の中断とは、中断の事由が生じることにより、その時までに時効が進行してきたという事実が法的効力を失い、その事由が終了した時から新たに時効が進行するというものであり、時効が完成した後に上記改正前の民法147条各号の事由が生じても、時効が中断することはないから、本件貸金債権の消滅時効が完成した後の本件仮執行宣言付支払督促の確定により、その消滅時効が中断することはない。」

 すなわち、消滅時効の更新事由・中断事由は、時効期間経過までの間に限り、それまで進んでいた時効期間の経過を一度リセットさせるものであって、時効期間経過後に、その時効期間経過の事実を失わせるものではないことから、消滅時効完成後に消滅時効の更新事由・中断事由が生じたとしても、時効の更新・時効の中断の効力が生じることはなく、債務者は債権者に対し消滅時効の援用を行うことができます。

 なお、あくまで、仮執行宣言付支払督促に「既判力」が生じないことから、仮執行宣言付支払督促が確定した後に、債務者が消滅時効の援用の主張が行えるものです。

 そのため、債務の支払いについて、訴訟を提起され、「判決」が下された場合、上記「判決」には「既判力」が生じることから、判決確定後に、債務者が消滅時効の援用の主張が行えないことには、注意が必要です。

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