弁護士による訴訟上の和解と別訴との関連性

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「訴訟上の和解と別訴の関連性」についての解説です。

 興味深い裁判例があったのでご紹介します。東京地裁平成30年2月9日判決(平成27年(ワ)16414号)です。

 この事件は使用者側(以下「X」とします。)と労働者側(以下「Y」とします。)の対立が発端の事件で、複雑なので簡単に事案を紹介します。

 この事件の前提として、もともと当事者間で2つの訴訟が裁判所に係属していました。①Yから、Xに対する、Xの暴行・暴言などを理由とする損害賠償請求事件と②Yを含む従業員らから、Xに対する、未払いの残業代請求事件です。

 このうち、①の事件は、暴言や暴力を映したドライブレコーダーの映像等の客観的証拠もあったことから、Yの請求が認められて、確定しました。その後、②の事件が終了する前に、Yは①で用いられた映像をネットや週刊誌に公開しました。

 これに対して、新たに③事件の資料を公開したことによって名誉が毀損され、売り上げが減少するなどしたとして、XからYに対して、損害賠償請求訴訟を提起しました。この③の事件が、今回取り上げた事例です。いずれの当事者にも、代理人に弁護士がついていました。

 その後、③の事件が終了する前に、②の事件について、XとYを含む労働者との間で訴訟上の和解が成立しました。その和解条項は「原告ら(Yら)と被告(X)との間には、本和解条項に定めるもののほか、本件に限らず、何らの債権債務がないことを相互に確認する。ただし、原告Z(注:Yとは別の労働者のことです)及び被告との間の・・債権債務については、この限りでない」という内容でした。このように和解によって互いの債権債務関係を消滅させる旨を取り決める条項を清算条項といいます。

 そしてYは、③事件において、この②事件での上述の和解の成立によって、③事件でXがYに請求する根拠も同時に消滅したと主張し、Xはこれを争いました。これが、本件の裁判例での事件の全容です。

 このYの主張について、裁判所はこれを認め、③事件のXのYに対する請求権は消滅したと判断しました。

 裁判所はその理由として、「訴訟代理人たる弁護士が関与して成立した訴訟上の和解の文言の解釈においては、その文言自体が相互に矛盾し、又は文言自体によってその意味を了解し難いなど、和解条項それ自体に瑕疵を含むような特段の事情のない限り、和解調書に表示された文言と異なる意味に解するべきではない」との見解を示しました。

 そのうえで裁判所は、②での和解条項では「本件に限らず」というあえて包括的な清算条項にしたこと(和解の清算条項は、「本件に関し」という形で和解の対象を限定するのが一般的です)を重視し、本件に関連してXとYの間で生じた法的紛争である③事件の権利も、②事件の和解によって消滅したという判断を行いました。なお、この判決は第1審で確定しています。

 この点、和解の内容として作成される和解条項は、それだけを見て誰でも和解の内容が理解できるように作成されます(そうでないと、当事者間で和解の内容理解に齟齬が生じてしまい、新たな紛争が生じる恐れがあります)。

  特に、代理人として弁護士が関与して作成された場合には、プロが関与して作成していますから、和解の条項に記載されている文章以外の解釈がなされる余地がないようにする必要があります。(特に本件は、裁判所と双方の代理人弁護士が関与している事例です。)

 本事例での裁判所の判断は、このような理解を前提としているといえ、当然の判断だといえます。

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