財産分与における裁判所の判断

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「財産分与における裁判所の判断」についての解説です。

 離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部について、裁判所の判断の下、財産分与についての裁判をしないでよいか、問題となっていました。

 この点について、最高裁判所が令和4年12月26日に判断しました。

 本件事案は、妻が、夫に対し、離婚を請求するとともに、これに附帯して財産分与の申立てなどをしたのに対して、夫は、妻に対して、同様の請求等をして事案です。

 この点、妻が財産分与の判断を求めた財産には、夫婦が婚姻後に出資して設立した医療法人の出資持分(以下「本件出資持分」といいます。)が含まれていました。

 なお、出資持分とは、厚生労働省によれば、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」と定義されています。

 原審は、本件出資持分も財産分与の対象となる財産にあたると判断しましたが、「上記医療法人が上告人(妻)に対して財産も横領等を理由に1億5767万円余りの損害賠償を求める訴訟が係属中であること等に照らせば、本件出資持分については、現時点で、上告人の上記医療法人に対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情がある」との理由で、本件出資持分を除いた財産についてのみ財産分与をしました。

 これに対して、妻が、本件出資持分について財産分与の裁判をしなかった原審の判断は違法として、上告をしました。

 この原審の判断について、最高裁判所は、以下のように判断しました。

「民法は、協議上の離婚に伴う財産分与につき、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができると規定し(768条2項本文)、この場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めると規定している (同条3項)。そして、これらの規定は、裁判上の離婚について準用されるところ (同法771条)、人事訴訟法32条1項は、裁判所は、申立てにより、離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、財産の分与に関する処分についての裁判をしなければならないと規定している。このような民法768条3項及び人事訴訟法32条1項の文言からすれば、これらの規定は、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合には、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして 分与を求める財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定しているものというべきであり、民法、人事訴訟法その他の法令中には、上記財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しない。

 また、離婚に伴う財産分与の制度は、当事者双方が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配すること等を目的とするものであり、財産分与については、できる限り速やかな解決が求められるものである(民法768条2項ただし書参照)。そして、人事訴訟法32条1項は、家庭裁判所が審判を行うべき事項とされている財産分与につき、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、離婚請求に附帯して申し立てることを認め、両者を同一の訴訟手続内で審理判断し、同時に解決することができるようにしている。そうすると、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、裁判所が財産分与についての裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないものというべきである。

 以上のことからすれば、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当である。」

 すなわち、最高裁判所は、①民法768条3項及び人事訴訟法32条1項の文言上、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合には、財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しないこと、②離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合に、財産の一部について、裁判所が財産分与の裁判をしないことは、財産分与の制度や民法768条2項及び人事訴訟法32条1項の趣旨に沿わないことを理由に、原審の判断を違法と判断しました。

 なお、本件判決は、当事者が財産分与の判断を求めているにもかかわらず、裁判所が財産分与の一部を判断しないことは許されないと判断したものであることから、当事者双方が、財産分与を行わないと合意した財産について、裁判所が判断しない場合も違法とするものではないものと考えられます。

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