相続放棄における注意事項・その1

 飯塚市の小島法律事務所より、弁護士による「相続放棄における注意事項・その1」についての解説です。

【相続放棄とは】

 相続放棄とは、被相続人の相続財産(プラスの財産とマイナスの財産全て)を一切相続せず、初めから相続人ではなかったことにする手続きです(民法939条)。

【相続放棄の注意点】

 相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、家庭裁判所の審判により、相続人でなかったことの効果が生じます(民法938条、家事事件手続法39、201条、別表Ⅰの95項)。

 ここで注意してもらいたいことは、家庭裁判所への相続放棄の申述は、相続放棄を行いたい相続人が、各自で、「自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内に」行わなければならないということです(民法915条1項)。

 そして、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、判例上、①相続開始の原因事実を知り、かつ、②そのために自己が相続人になったことを覚知したとき(大審院大正15年8月3日決定民集5巻10号679頁)とされています。

 なお、仮に、相続放棄の申述をせずに、3か月が経過すると、単純承認というかたちで、マイナスの財産も含めて、全て相続することになります(民法921条2号)ので、期間については注意が必要です。

 次に、3か月経過後に、予期せぬ債務を知ったときに、一切相続放棄ができないのかという問題があります。

 この点、判例では、「相続人が、右各事実【相続開始の原因事実の発生と、そのために自身が相続人になったこと】を知った場合であっても、右事実を知ったときから3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活履歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうるべき時から起算すべき」と、一定の条件のもと、期間の起算点を繰り下げることを認めています(最高裁判所昭和59年4月27日判決民集38巻6号698頁。)。

 しかし、上記判例は、「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり」と判示していることから、一部の財産の存在について認識がある場合には、期間の起算点の繰り下げができるのか問題となります。

 この問題については、実務上、相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られるとの考え(限定説)と、一部相続財産の存在は知っていたが、通常人がその存在を知っていれば当然相続を放棄したであろう債務が存在しないと信じた場合も含まれるとの考え(非限定説)があります。

 そして、運用については、最高裁判所判例解説では限定説の見解をとっている一方で、高等裁判所レベルで非限定説に立った判断もあるため、どのように運用しているのかは明確には決まっていません。

 ですので、相続財産の一部を知っている場合には、3か月の期間については、特に注意が必要となります。

参照書籍:『QA 限定承認・相続放棄の実務と書式』

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